さて、徳島県は全国的にも石や医療機関の多い所だとよく言われています。
データ上からもそれは裏付けられています。
人口10万人あたりの医師、薬剤師の数がいずれも全国1位です。
また人口10万人あたりの病院の数も全国3位となっています。
しかし、医療機関の数の充実度では都市部と郡部に格差があるのもまた事実です。
それは県民意識調査で、今後充実を望む医療として「へき地医療」を挙げた人が3位と多かったことからもうかがえます。
きょうご紹介するのは、高齢化がすすむ、つるぎ町端山(はばやま)地区で独自の通所リハビリを行っている診療所の医師の取り組みです
。
(VTR)
美馬郡つるぎ町貞光。
ことし2月まで貞光町端山(さだみつちょうはばやま)と呼ばれていた地域です。
人口は約1300人。
住民の3人に一人は65歳以上の高齢者です。
ハルカさんは一人暮らしです。
診療所へ持っていく野菜を準備しています。
(インタビュー)
「問うたら何でも答えてくれる女の先生」、それが十枝(とえだ)先生です。
十枝紀巳代(とえだきみよ)先生は端山診療所の所長さんです。
赴任してまる8年になろうとしています。
地区でただひとつの診療所として、常勤の先生と看護師、パートの介護助手、運転手、この4人で切り盛りしています。
診察を終えた患者さんが次にやってくるのは隣の調理室です。
実はこれ、通所リハビリテーションの一環なんです。
通所リハビリテーションとは、介護保険法の要介護認定で、要支援、要介護1から5に認定された人が
昼間医療機関に通い、健康相談やリハビリテーションなどを受けるものですが
食事を自分たちで作るというのが、ここ端山診療所の特徴です。
料理つくりをメインにしたリハビリは、料理の得意な十枝先生ならではのもので
現在は、月・水・金の週3回開かれています。
高齢の患者さんへの配慮がいたるところに見られます。
ホットプレートのコードを天井からつるして足でひっかける心配をなくしました。
ペットボトルのお茶はこまめに飲んで、高齢者に不足しがちな水分を取って欲しいという先生のアイデアです。
塩分や糖分は極力控えめを心掛けています。
こちらがきょうの献立です。
高齢者には多すぎる量に思えます。
それもそのはず。
これで一日の必要量の栄養を満たしているのです。
食べきれない分は持ち帰り、夕食のおかずにもなります。
みんなで作るからこそ、品数も充実するわけです。
先生が必要だと判断した人にはお弁当として1食200円で届けます。
200円は、自給自足が多い患者さんにとっては、必ずしも安いとはいえない金額です。
しかし、診療所にとってもこれがぎりぎりのところです。
患者さんが差し入れてくれる野菜が助けになります。
先生、患者さんへの健康上のアドバイスを欠かしません。
料理作りをメインにした通所リハビリには高齢者にとって「食べること」がいかに大切かという先生の思いが込められているのです。
通所リハビリに通っている患者さんは25人。
そのうち15人が一人暮らしです。
週1回通っている清さんも一人暮らしです。
きょうは自炊ですが、週2日は診療所からお弁当が届きます。
糖尿病なので、塩分・糖分を控えるよう言われています。
数日後、清さんの症状の変化に気付いた先生は、関連の病院で受診するように進めました。
病気が見つかり、手術も終えた現在は、また診療所に通い始めています。
端山診療所の通所リハビリは送迎付きです。
スタッフの数が足りないので先生も迎えに行きます。
先生、リハビリをお休みした患者さんにお弁当を届けに行きます。
訪問診療以外にも、折に触れ訪問して世間話をすることが大切と思うからです。
ハツコさんは十枝先生が赴任した頃、脳梗塞で倒れました。
先生がリハビリに引っ張り出した甲斐あって今では料理ができるまでに回復しました。
(スタジオ)
県内で通所リハビリの施設はたくさんありますし、昼食をとるのも一般的ですが自分たちで作ると言うのは珍しいですね。
料理を実際に作ることは、ぼけ防止効果もあるそうです。
お互いに話もはずみますよね。
水分をとる工夫としてペットボトルを常に身近に置いておくというは、高齢者に限らず、私たちも参考になりますね。
ところで、十枝先生はとてもお料理が得意なんですね。
それもそのはず。
先生は長いこと専業主婦をされていたんです。
(VTR)
十枝先生は、東京で小学校の先生をしていた頃、大学教員の夫と結婚し、仕事を辞めて徳島に移ってきました。
そして長男を出産した後体調を崩したことが、医師を志すきっかけとなりました。
30歳のときです。
(インタビュー)
6回目の受験で徳島大学医学部に合格した時には36歳。
その間に女の子が生まれ、二人の子どもの母親になっていました。
合格の喜びの一方で、若い受験生のポストを一つ奪ったことを自覚しました。
(インタビュー)
42歳で医師になり、町中の大きな病院に勤めましたが何かが違うと思い始めていました。
端山診療所で医師を募集していることを知り、迷わず移ってきたのが今から8年前のことです。
春のあさ6時。
調理室の明かりはもう灯っています。
通所リハビリのある週3日、食材の下ごしらえをするのも十枝先生の役目です。
患者さんみんなに仕事があたるよう、また複雑な工程も入れて飽きないようにと献立を考えます。
人間の経験にむだなものは一つもないと思う、十枝先生です。
介護助手さんへの引継ぎのメモを添えて準備完了です。
診療所の2階が先生の住まいです。
92歳になるお母さんと暮らしています。
先生が、おととし一人暮らしになったのを機に同居することにしました。
今は訪問介護のヘルパーさんの助けを借りながらの同居生活です。
(インタビュー)
早朝から大忙しの先生は、つかの間の昼休みです。
<昼寝をしている先生>
その間、呼吸法と体操の指導を受け持つのは看護師さんです。
通所リハビリでは、診察、調理、栄養の講義それと身体を動かすことを大事にしています。
患者さん同士の助け合いもおなじみの光景です。
休憩を終えた先生も加わってのおやつタイム。
患者さんの一人が、自家製の「切り干し芋」を差し入れてくれました。
お芋を中心に話がはずみます。
そう、みんなで食べるからおいしさもひとしおです。
先生、なんだかあわただしく動き回っています。
実はこれまで担当だった介護助手さんが交代することになったのです。
人件費不足でパートの介護助手さんに充分な処遇ができないのも悩みの種です。
一人暮らしのトラエさんは、先生から頭の体操にと進められた計算ドリルをするのが日課になっています。
4月、みんなが楽しみしていたお花見会です。
流しソーメンが端山診療所のお花見の定番です。
患者さんと向き合うことで教えられることも多いと言います。
(インタビュー)
先生が、医学の道に進むことを応援してくれた夫とは現在、
お互いの思いを尊重し合おうと別居しています。
(インタビュー)
診療所は65歳が定年です。
後継者についても、考えるようになってきました。
(インタビュー)
自分の同級生が次々と定年を迎え、介護のボランティアを申し出てくれる人も現れました。
十枝先生、ボランティアの介護助手ということも考え始めました。
(スタジオ)
十枝先生の思いが伝わってきました。
しかし、定年まであとわずか。
先生の思いを受け継ぎ、広げる方向に向かってほしいものですね。
そうですね。
小さな診療所でできることは限られているかもしれないけれど、逆に小さいからこそできることもあると先生は話しています。
今後、せっかくの取り組みが無駄にならないように、地域の医療機関の連携やボランティア制度の有効利用などさらに発展をさせてほしいものです。
けさは、端山診療所、十枝紀巳代先生の通所リハビリの取り組みをご紹介しました。